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FUYUU

20150917

秋雨が、重さを、鈍さを、なくしていく。気温が下がると、空気の密度は低くなる。空は高さを増し、窓ガラスは色を持たなくなる。しかし、空気の軽さに反比例して、身体はひんやりと重さを増している。−−−重力は、季節によって作用する場所を変えるのだ。季節が変わる度に思うのは、私たちは重力にやられてしまっているという事実。もともと、私たちのからだは星からできていて、私たちのかたちは重力からできている。それはきっと、私たちがうっかり浮かんでしまわないように、星に戻らないように。重力は奇跡的なバランスでこの世界を繋ぎ止めている。いつからか、重力を忘れることが、美しく生きることだと、強く生きることだと、教えられるようになった。私たちはいつでも弱く愚かだから、そうやって何かを諦めていく術を、なんとか身につけなければいけないのだ。今までにはたくさんの人が、重力に殺されていることを私は知っている。宇宙のエネルギーに巻き込まれて、星に戻っていってしまった彼らのことを。けれど彼らを愚かだと思うには、私たちはあまりに幼稚で、不完全すぎた。彼らの必死さ、懸命さは、まぎれもなく愛であったと思う。自分に対する、重力に対する、星に対する、どうしようもない愛であったと思う。彼らは重力を手放し、星に戻ることを選んだ。それは無様で醜い生のかたちであり、私たちに祈りを教える。星に戻る、とはつまり、果てしなく分解されて、限りなく小さい粒になるということ。この世界で素粒子と呼ばれるそれはどうやら重力が関係ないらしい、ようやくとびきりの軽さを手にした彼らは、宇宙であり、大気であり、土であり、空であり、海であり、私たち自身だ。宇宙が膨張を続けるように、私たちも膨張を続けるのでしょうか、私たちは一体いつまで愚かさを薄めていけばいいのでしょう。愛はいつでも不完全さに支えられていることを、彼らはどれだけ知っていたでしょう。どんなにカッコ悪くても、美しくなくても、重力を愛した彼らに、私は敬意を表し続けたい。たまには空を見上げて、流れる星を見つけたい。重力を忘れない強さを持ちたい。