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FUYUU

20141025

ガラガラの車内には独特の倦怠感とある種の安堵と微かなお酒の匂いが満ちていて、--アトリエから帰る最終電車が実は結構好きだったりする。見下ろす住宅街の光は星のようで、ぼーっと見ていると宇宙を走っている気分になれる。視界の端の方ではコンパ帰りの女の子のカバンがフラフラとチラつき、目の前では疲れたサラリーマンが首をもたげて眠っている。驚くべきほどの日常は、時に私から日常を遠ざけることがある。電車はただの閉じた箱で、そんなものがガタンゴトンと、私と見知らぬ誰かがガタンゴトンと、運ばれているのはとても不思議だ。私はいつだって、見知らぬ誰かに思いを寄せたいと思っている。作品を作る時も、言葉を紡ぐ時も。なんと言ったらいいのかつまり、誰ひとりいなくならずにいてほしい。無意味で身勝手で馬鹿げた願い。その横で私は、どれだけの人を殺してきたのかも省みずに、殺されたくないと熱心に祈る。もしくはその手で殺してと。現実は、白く清潔で、ポップな死が氾濫している。死の回収ができるかわからない。それでも、もっとみんなの背後にある神話的なものへコミットできるようになれば、きっとそういう人たち、たとえば私を殺していく人たちの世界も拡がるんじゃないか、というのは私の甘い夢想に過ぎないが、その敗北に光をみたい。