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FUYUU

20140224

自分に向けて、あしたをおもう散歩の記録
画材を買ってどうにもまっすぐ帰ることができなかった私は川へ向かってずんずんと歩いた。河岸で光る街灯も、子供がいなくなった小学校から漏れる明かりも、優しいオレンジ色で輝いていて、オレンジ色はすっかり人々の行いを清めていた。オレンジ色には一日のうちにとびきり輝く時間が与えられているんだ。いつか慣れ親しんだ通学路はとんと情景を違えて小さな踏切は跡形もなくオンボロの家は新築に変わっていた。〈シンナーの誘惑を断ろう〉という看板はそのままだったけれど、二十年生きてきてシンナーの誘惑なんて一度たりとなかったこの街には最も無意味な看板に思えた。川の方にはテントに鮮やかな青をたたえた新しいコインランドリーができていて懐かしい洗剤の匂いがした。こんなことに新鮮さを覚えられる自分を褒めたい。川はいつでも変わらずただそこに横たえていた。川に映る光が綺麗で一眼を持ってこなかったことを悔いたけれど、この感覚を収めるには携帯のスナップで十分だとすぐに思い直した。私の記憶の能力は携帯のカメラよりずっと低い。帰りは行きと同じ道を辿った。2度目のコインランドリーに新鮮さはもうなかった。右と左が違うくらいでは何も感ぜられない。こんなとき詩人は何と書くのだろう。それにしてもこの街は都会にも田舎にもなりきれず、まさに私そのものだ。私は歩きながら、理由がなくてもこの街を一度離れてみようと考えていた。
 
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